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そもそも劇は虹の如きなり。彼も此も天地の間に架したる橋梁なり。彼も此も人皆仰いでその光彩を喜ぶ。然はれどもその倏忽(しゅつこつ)にして滅するや、彼も此も迹(あと)の尋ぬべきなし。
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by lecorsaire
| 2011-12-20 16:19
| 銘句
鷲は彼を砕かんと、蒼穹の高きより
露わなる額の上に、亀を放たん、
彼等、如何にしても死すべきものなれば。
(小林秀雄 訳)
アイスキュロスは四五六年シケリア島のゲラ市で没した。一説にはあたかもその頭上を一匹の亀を摑んだ鷲が飛翔し、彼の禿頭のまぶしさに目が眩み・・中略・・思わず亀を落したところ、狙いたがわず彼の頭に命中して即死したともいうが、はなはだ怪しい。時に六九歳であった。(筑摩書房 世界文學体系 2 ギリシア・ローマ古典劇集 アイスキュロスの紹介文 呉茂一)
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by lecorsaire
| 2011-12-20 16:18
| 銘句
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by lecorsaire
| 2011-12-17 20:50
| 絵画
舞踏ー天空揺藍主催
吉本大輔舞踏公演 『百合懐胎す』
12月1日(木)〜7日(水) 開場19:00 開演19:30
同じ公演を3回観た感想を書く。
3回それぞれに、まったく違った奇蹟をまさぐるとる・・・・奪胎する事ができた。
一度目
夜につつまれた、会場の、東生田会館に入るなりキモをつぶした。あかりが深寒と灯る館内の会場に、床がみえないほど枯葉が敷き詰められている。壁は鉢植えの緑葉植物で熱帯的に覆い尽くされて匂いを発散している。館内に夜の庭を持ち込んでしまったような錯覚に捕らわれると舞踏はもう始まっているのとおなじになる。大輔さんは開演まえから枯葉の中央でポンペイの遺跡の石膏人体のように横たわっている。
闇明かりと匂いと枯葉の奥に、それはまるで玉座のように、便器が鎮座している。「便所のほうがえらい公園」が、舞踏をつつみこんでいた。
幽かに聴こえるマリア・カラスのアリアが「 泣け、 泣け、わが目」と歌声をひきしぼる。
客はまるで公園の枯葉の地べたに座布団を敷いて座り込むわけだ。
一旦そとへ出たら、中のにおいも外にもって出てしまい、自分の匂いの周囲が、あまりにも無臭なので可笑しかった。
マリア・カラスのアリアから、鴉(カラス)の鳴き声の音響へと変わる。白骨いろの照明をあびて、白塗りの舞踏身体が、ひややかにゆたかなおっぱいのふくらみにみえてくる。すると、
・・・・・・・・・・・・!!!
舞踏が、横たわったまま、息がつぶれるほどの円周を描いて、途方もなく巨大化したのだ。
「何と巨大なのだろう」1日目の舞踏の印象はこれだった。
吉本大輔の舞踏が、開演と同時に、今まで見たことも無いほど巨大になった。
舞踏のつくりだす空気も、今回のは特別に濃い目で、耐え切れず咳こむのが、あちこちから聞える。
観ている俺の体の中で、一秒ごとに濃い味付けをほどこすように秒針の刻む音が痛烈な時計をそびやかした舞踏の時間がうごいてまわる。
「舞踏とは、異空間をつくりだすことだ」というならば、この日のこれこそまさに舞踏の神髄だ。
舞踏の巨大さの周囲に、円周を巨きく張り巡らせ、円にのみこまる者を圧倒し、どんどんと縮めていく。俺の身体が・・・・・・
俺のからだが、みるみると無様に縮まっていく!ある者たちは、縮む姿がますます美しくなっていくのに。
舞踏が、厳寒の水底にねむった宝箱のふたをあけ便器に戴冠服を突っ込みはじめた時、
ようやっと美の恍惚に触れられてきた。水のながれる豪奢、戴冠服で用便・・・・・・
舞踏は、能楽をはるかに超える時空変転で、直線姿勢を枯葉地面にけちらし、腹筋を鼓動させる。
際限なく、巨大化をやめようとしない。
枯葉がちいさい点になってうごめく難破船をもてあそぶ黒い波しぶきを波濤させ、音楽が、 ショスタコーヴィチのワルツが円舞を鼓動させる。気が付いてみると、舞踏が洋式べんじょの女神さまのやどる便器を人形を相手のようにかかえて、ワルツを踊っていた。
2度目
マリア・カラスのアリアから、鴉(カラス)の鳴き声の音響へと変わる。白塗りの舞踏身体が、・・・・・・・
身体が、産道の奥のうごめきを舞踏させる。産道の中身が、帝王切開で、暗闇といっしょに、ひっぱられて出てきた。暗闇は、月と星空でできて、館の空をおおいつくし、館は舞踏のあいだ、宮殿になる。
月夜の、百合宮殿の純白のレリーフが、残像のうごきにも似た舞踏を、彫刻をおおう細かい破片ごと輝かせた。
砂金が舞い上がって、静かに歌っている。舞踏とは、なんと美しいのだろう。
観ているうちに、だんだん自分が、舞踏と同じくらい大きくなっていく。客席からひろがるジャスパーの沙漠を三本指の裸足で歩いた。
「きさまのそんな御喋りなど、その舌とともに呪われるがいい。このマグダフ様は赤子の時、おふくろさまが腹を切り裂いて、きさまよりもずっと帝王らしく生まれてきたんだ」(『マクベス』最終幕。マグダフがマクベスを地獄に落とす)
舞踏の端からはしまで、言葉は過剰なうるおいを蒸発させて、周囲の枯葉いちまいいちまいに、喜ばしい死のように吸い込まれていく。
いままで見た、どんな舞踏よりも美しい時間が、この日の夜にはあった。
ショスタコーヴィチのワルツが鳴り、

フォンテーヌブロー派の沈鬱画の姉妹をダンスに誘うように便器を手にとり、
透徹が極みをつくした、その表面が玲瓏なまるで白磁の上等品であるような冷たい官能を煌めかせた舞踏を、会場のラストでえがきあげた。
妖しく蒼い零度の人工楽園でできた人工廃園の時間城に触れて、終いから始めまでずっとふるえつづけた。-----------暖房?公演中は、12月の館内ぜんぶスイッチを切っていた。
3度目
帝王切開の執刀医たちが、客席をうめつくしている。もちろん、俺のポケットの中も怪しい手術メスでいっぱいだ。
その日は最終日。4回も5回もみている客から公演中の寒さを訴える声が続出したのだろう、入り口で、防寒の足しになればと真っ白いマスクが配られていた。客席は眼力のむれがうごめいている。ポケットの奥をギラギラまさぐっている。
鴉(カラス)の鳴き声の音響へと変わる前から、「泣け、 泣け、わが目」とマリア・カラスのアリアが、泣き声が切開される舞踏の腹の底からギャンギャン泣いてきこえてくる。 懐のメスは懐胎でも堕胎でもいいから、からだの中に刃をはしらせたがってみんなうずうずしてる。
白塗りの舞踏身体が、 ・・・・・・ 身体が、産道の奥のうごめきを鳴動させる。産道の中身が、 最終日だけあってひときわ多い客の視線が集中した帝王切開で、 暗闇といっしょに、ひっぱられて出てきた。
絶叫の氷漬けが、
カラスの嬌声とくちばしの群れの血まみれ惨歌をまとって、

舞踏を まるで、 夜会ドレスの裳裾をながく長く、 気が切れ裂くほどに長くひきずって・・・・・・
舞踏をつつみこむ、白塗りとおなじくらい底なしに白いマスクで口を覆い、饒舌を封じられた俺のからだが、舞踏の大きさと釣り合っていることを無量の心地で噛みしめる。まだ童貞の欲望を貪っていた頃に抱いてもらった娼婦から、背中がきれいで手があたたかいとしみじみ言われた事をハッと思いおこす。この夜みた舞踏の背中と、手の格調はかけがえもなく美しかった。
透みきった五感の静けさに染みとおってくるのは客席のあちこちの帝王切開医服のポケットから幽かに響く手術メスの唸り声。
枯葉のじゅうたんを敷きつめた娼館のへやの、歩む先には便器がまちうけ、頭上には、華奢な白いレースのパラソル。
(レースの傘は、娼婦のしたぎのレースの壮麗さと対流し、娼夫=舞踏女神は手の中の下着を、サラ・ベルナールさながらの神聖怪物のみぶりで枯葉へとほうりなげる。)(投げたあとも、その動きが三度くりかえされる。幻像=実像の下着パラソルが放り投げられる):当日の公演メモをそのまま書く。
(便座の、娼技に淫絶する「客」・・・・・便座の上にのっかって、男のクツが女のヒールにスパンキングされる。)
便座の周囲はまるで巨大肉食恐竜の、化石からもわかる足形の暴虐さが、はしりまわり、ころげまわり、男体と女体のぶつかりあいを轟かせて、法悦、法悦、嬌声、法悦、(万雷が一度におちる)、法悦、法悦。法悦、法悦法悦、法悦。閃光、法悦、(メスの切り傷が濛々と煙を噴く)、法悦、法悦。法悦、法悦法悦法悦法悦法悦法悦、法悦。炸裂、法悦。ゆり(百合)をたばねた鞭が叩かれ、花粉と葉粉が舞い散る。跳びはねる。「息苦しい!息苦しい!蒸風呂のなかのように。石盤の蠟は溶ける、書いた文字もみな消えてゆく。この百合の匂いよ!何たるこの百合の匂いよ!」ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ! ハレルヤ!!! 7日間の公演に耐え抜いた館の床の、どんなオペラハウスのステージもひざまづかせる程の壮麗で大胆なちからづよさの表面に執刀医たちのメスの群が一枚の板のはがねをよこたえて、舞踏の狂乱をうけとめていた。
舞踏のうえに、巨きな静寂が飛翔する。するうち完全な闇が、来た。
拍手。拍手・・・・・・・・・・・
七日間ぜんぶの公演が、ぜんぶ、おわった。・・・・・・・
さあ、マスクをはずそう。帝王切開の手術は終わっ・・・・・・・・・・・・
「待った」
暗闇から、「ちょっと待った」声があがる。・・・・・・・・ん?声?、ちがう。これは、
・・・・・・・・・・・・・・・・・「!」
「白鳥の湖」の、四羽の白鳥の踊りのメロディーだ!!!

客の目と鼻から下が、一人残らずマスクの白い白鳥の羽毛でうもれたステージを、内股でバレエが舞う。ステージと客席入り乱れての狂乱のるつぼ。
内股で、四元素が白鳥のすがたをとった錬金術の、いい匂いで円陣軌道をぐるぐるまわって共食いする四つの星の、その中心から写真をみるように水飛沫で飛び出た「第五元素」が、湖くらいに満ちた万物溶解錬金液の水面を火水土風の踊る四羽もろとも、しろい羽毛の水面を四重の同心円で、水脈を深くえぐり、マスクの上の鼻と目を羽毛の底に冷然とうちひろがる、渦をえがく中心(第五元素)の胎内へと、ひとりのこらずひきずりこんでいく。
吉本大輔舞踏公演 『百合懐胎す』
12月1日(木)〜7日(水) 開場19:00 開演19:30
同じ公演を3回観た感想を書く。
3回それぞれに、まったく違った奇蹟をまさぐるとる・・・・奪胎する事ができた。
一度目
夜につつまれた、会場の、東生田会館に入るなりキモをつぶした。あかりが深寒と灯る館内の会場に、床がみえないほど枯葉が敷き詰められている。壁は鉢植えの緑葉植物で熱帯的に覆い尽くされて匂いを発散している。館内に夜の庭を持ち込んでしまったような錯覚に捕らわれると舞踏はもう始まっているのとおなじになる。大輔さんは開演まえから枯葉の中央でポンペイの遺跡の石膏人体のように横たわっている。
闇明かりと匂いと枯葉の奥に、それはまるで玉座のように、便器が鎮座している。「便所のほうがえらい公園」が、舞踏をつつみこんでいた。
幽かに聴こえるマリア・カラスのアリアが「 泣け、 泣け、わが目」と歌声をひきしぼる。
客はまるで公園の枯葉の地べたに座布団を敷いて座り込むわけだ。
一旦そとへ出たら、中のにおいも外にもって出てしまい、自分の匂いの周囲が、あまりにも無臭なので可笑しかった。
マリア・カラスのアリアから、鴉(カラス)の鳴き声の音響へと変わる。白骨いろの照明をあびて、白塗りの舞踏身体が、ひややかにゆたかなおっぱいのふくらみにみえてくる。すると、
・・・・・・・・・・・・!!!
舞踏が、横たわったまま、息がつぶれるほどの円周を描いて、途方もなく巨大化したのだ。
「何と巨大なのだろう」1日目の舞踏の印象はこれだった。
吉本大輔の舞踏が、開演と同時に、今まで見たことも無いほど巨大になった。
舞踏のつくりだす空気も、今回のは特別に濃い目で、耐え切れず咳こむのが、あちこちから聞える。
観ている俺の体の中で、一秒ごとに濃い味付けをほどこすように秒針の刻む音が痛烈な時計をそびやかした舞踏の時間がうごいてまわる。
「舞踏とは、異空間をつくりだすことだ」というならば、この日のこれこそまさに舞踏の神髄だ。
舞踏の巨大さの周囲に、円周を巨きく張り巡らせ、円にのみこまる者を圧倒し、どんどんと縮めていく。俺の身体が・・・・・・
俺のからだが、みるみると無様に縮まっていく!ある者たちは、縮む姿がますます美しくなっていくのに。
舞踏が、厳寒の水底にねむった宝箱のふたをあけ便器に戴冠服を突っ込みはじめた時、
ようやっと美の恍惚に触れられてきた。水のながれる豪奢、戴冠服で用便・・・・・・
舞踏は、能楽をはるかに超える時空変転で、直線姿勢を枯葉地面にけちらし、腹筋を鼓動させる。
際限なく、巨大化をやめようとしない。
枯葉がちいさい点になってうごめく難破船をもてあそぶ黒い波しぶきを波濤させ、音楽が、 ショスタコーヴィチのワルツが円舞を鼓動させる。気が付いてみると、舞踏が洋式べんじょの女神さまのやどる便器を人形を相手のようにかかえて、ワルツを踊っていた。
2度目
マリア・カラスのアリアから、鴉(カラス)の鳴き声の音響へと変わる。白塗りの舞踏身体が、・・・・・・・
身体が、産道の奥のうごめきを舞踏させる。産道の中身が、帝王切開で、暗闇といっしょに、ひっぱられて出てきた。暗闇は、月と星空でできて、館の空をおおいつくし、館は舞踏のあいだ、宮殿になる。
月夜の、百合宮殿の純白のレリーフが、残像のうごきにも似た舞踏を、彫刻をおおう細かい破片ごと輝かせた。
砂金が舞い上がって、静かに歌っている。舞踏とは、なんと美しいのだろう。
観ているうちに、だんだん自分が、舞踏と同じくらい大きくなっていく。客席からひろがるジャスパーの沙漠を三本指の裸足で歩いた。
「きさまのそんな御喋りなど、その舌とともに呪われるがいい。このマグダフ様は赤子の時、おふくろさまが腹を切り裂いて、きさまよりもずっと帝王らしく生まれてきたんだ」(『マクベス』最終幕。マグダフがマクベスを地獄に落とす)
舞踏の端からはしまで、言葉は過剰なうるおいを蒸発させて、周囲の枯葉いちまいいちまいに、喜ばしい死のように吸い込まれていく。
いままで見た、どんな舞踏よりも美しい時間が、この日の夜にはあった。
ショスタコーヴィチのワルツが鳴り、

フォンテーヌブロー派の沈鬱画の姉妹をダンスに誘うように便器を手にとり、
透徹が極みをつくした、その表面が玲瓏なまるで白磁の上等品であるような冷たい官能を煌めかせた舞踏を、会場のラストでえがきあげた。
妖しく蒼い零度の人工楽園でできた人工廃園の時間城に触れて、終いから始めまでずっとふるえつづけた。-----------暖房?公演中は、12月の館内ぜんぶスイッチを切っていた。
3度目
帝王切開の執刀医たちが、客席をうめつくしている。もちろん、俺のポケットの中も怪しい手術メスでいっぱいだ。
その日は最終日。4回も5回もみている客から公演中の寒さを訴える声が続出したのだろう、入り口で、防寒の足しになればと真っ白いマスクが配られていた。客席は眼力のむれがうごめいている。ポケットの奥をギラギラまさぐっている。
鴉(カラス)の鳴き声の音響へと変わる前から、「泣け、 泣け、わが目」とマリア・カラスのアリアが、泣き声が切開される舞踏の腹の底からギャンギャン泣いてきこえてくる。 懐のメスは懐胎でも堕胎でもいいから、からだの中に刃をはしらせたがってみんなうずうずしてる。
白塗りの舞踏身体が、 ・・・・・・ 身体が、産道の奥のうごめきを鳴動させる。産道の中身が、 最終日だけあってひときわ多い客の視線が集中した帝王切開で、 暗闇といっしょに、ひっぱられて出てきた。
絶叫の氷漬けが、
カラスの嬌声とくちばしの群れの血まみれ惨歌をまとって、

舞踏を まるで、 夜会ドレスの裳裾をながく長く、 気が切れ裂くほどに長くひきずって・・・・・・
舞踏をつつみこむ、白塗りとおなじくらい底なしに白いマスクで口を覆い、饒舌を封じられた俺のからだが、舞踏の大きさと釣り合っていることを無量の心地で噛みしめる。まだ童貞の欲望を貪っていた頃に抱いてもらった娼婦から、背中がきれいで手があたたかいとしみじみ言われた事をハッと思いおこす。この夜みた舞踏の背中と、手の格調はかけがえもなく美しかった。
透みきった五感の静けさに染みとおってくるのは客席のあちこちの帝王切開医服のポケットから幽かに響く手術メスの唸り声。
枯葉のじゅうたんを敷きつめた娼館のへやの、歩む先には便器がまちうけ、頭上には、華奢な白いレースのパラソル。
(レースの傘は、娼婦のしたぎのレースの壮麗さと対流し、娼夫=舞踏女神は手の中の下着を、サラ・ベルナールさながらの神聖怪物のみぶりで枯葉へとほうりなげる。)(投げたあとも、その動きが三度くりかえされる。幻像=実像の下着パラソルが放り投げられる):当日の公演メモをそのまま書く。
(便座の、娼技に淫絶する「客」・・・・・便座の上にのっかって、男のクツが女のヒールにスパンキングされる。)
便座の周囲はまるで巨大肉食恐竜の、化石からもわかる足形の暴虐さが、はしりまわり、ころげまわり、男体と女体のぶつかりあいを轟かせて、法悦、法悦、嬌声、法悦、(万雷が一度におちる)、法悦、法悦。法悦、法悦法悦、法悦。閃光、法悦、(メスの切り傷が濛々と煙を噴く)、法悦、法悦。法悦、法悦法悦法悦法悦法悦法悦、法悦。炸裂、法悦。ゆり(百合)をたばねた鞭が叩かれ、花粉と葉粉が舞い散る。跳びはねる。「息苦しい!息苦しい!蒸風呂のなかのように。石盤の蠟は溶ける、書いた文字もみな消えてゆく。この百合の匂いよ!何たるこの百合の匂いよ!」ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ! ハレルヤ!!! 7日間の公演に耐え抜いた館の床の、どんなオペラハウスのステージもひざまづかせる程の壮麗で大胆なちからづよさの表面に執刀医たちのメスの群が一枚の板のはがねをよこたえて、舞踏の狂乱をうけとめていた。
舞踏のうえに、巨きな静寂が飛翔する。するうち完全な闇が、来た。
拍手。拍手・・・・・・・・・・・
七日間ぜんぶの公演が、ぜんぶ、おわった。・・・・・・・
さあ、マスクをはずそう。帝王切開の手術は終わっ・・・・・・・・・・・・
「待った」
暗闇から、「ちょっと待った」声があがる。・・・・・・・・ん?声?、ちがう。これは、
・・・・・・・・・・・・・・・・・「!」
「白鳥の湖」の、四羽の白鳥の踊りのメロディーだ!!!

客の目と鼻から下が、一人残らずマスクの白い白鳥の羽毛でうもれたステージを、内股でバレエが舞う。ステージと客席入り乱れての狂乱のるつぼ。
内股で、四元素が白鳥のすがたをとった錬金術の、いい匂いで円陣軌道をぐるぐるまわって共食いする四つの星の、その中心から写真をみるように水飛沫で飛び出た「第五元素」が、湖くらいに満ちた万物溶解錬金液の水面を火水土風の踊る四羽もろとも、しろい羽毛の水面を四重の同心円で、水脈を深くえぐり、マスクの上の鼻と目を羽毛の底に冷然とうちひろがる、渦をえがく中心(第五元素)の胎内へと、ひとりのこらずひきずりこんでいく。
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by lecorsaire
| 2011-12-12 20:12
| 公演
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