我れ若し女帝の密使なりせば

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「贋作マッチ売りの少女」神奈川公演(2月4日マチネ・ソワレ) 3

「贋作マッチ売りの少女」神奈川公演(2月4日マチネ・ソワレ) 1
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「贋作マッチ売りの少女」神奈川公演(2月4日マチネ・ソワレ) 2

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舞台はその破天荒ぶりに、いよいよ拍車がかかる。
サナトリウムからジオが去ると、入れ替わりにあらわれた、幻想都市ロンドンの怪人ジャック・ファントムが黒マントの奥にたっぷりとつめこんだ、ロンドンじゅうの悪罵の集合体をヴァンにあびせる。

しかし、サナトリウムの外にふきつける死の冷気は、(サナトリウムの)中までは追ってこない。ジャック・ファントムは唇をかみしめる。
看守のイルマは「サナトリウム中学校」でショック療法に邁進する保健室の先生を、しおらしく気張ってみせるが気持ちが折れ、新米教師のように泣き崩れる。これがかわいい。
ジャック・ファントムが、イルマの目にはみえない姿でつぶやく。
やれやれ、ここがクソ学園などではなく、楽園なのだと気付いてないのだな・・・・・・・・・・・・・・まだ。

「お前笑えよ」

ジャック・ファントム (サナトリウムに居る誰も、ゴッホとアルトーを狂人よばわりしないではないか。人食い王も、盗賊王もアブサン王も、破綻した病院世界のあちこちを永遠の暴虐でみたし、この破綻がかれらを救っているのだからな。)


人食いソニー・ビーン「お前笑えよ、 笑うと美味そう」
このセリフは、終演後にじわじわと胸にせまってきた。ヴァンの体から、ひまわりの香りが空たかく、星月夜をこえて天空へと舞い上がる、あたたかい香りの軌跡を、闇のむこうから、サナトリウムじゅうの目が凝視する。






ステージ後方の、マイク・スタンドに大島朋恵が立つと、
そこにはジャック・ファントムの残り香が漂っている。「死のゆび」にも、怪人のマントの襞が幾重にも光沢をひろげている。

ヴァンとポールの共同生活が、徐々に信頼を崩壊させていく軌跡をひるがえしてダンスを舞う。
絵の中の葡萄畑がオペラのような落日いろに染まる。
縦横無尽であって翳りに満ち、凶暴でうつくしい。右と、そして左それぞれの顔面をそれぞれ別々の造形作家がつくって、真ん中でつなぎあわせたら、片顔面どちらかのせいで理想的な顔立ちにならない。「お前の自画像、耳の形がおかしいんだよ!!!」
ポールがヴァンとのあいだに生じた裂け目の不連続面に激発する、その背後にはジャック・ファントムの哄笑がとどろく。






黒い炎に映える白装束のポールとアルルがステージのうえを残酷な人形芝居のように、弦楽器の弓のようにナイフが、アルルの首を這い、喉笛を切り裂く。






サナトリウムのシーン以降は終幕まで、閉鎖病棟から死ぬまで出られないにちがいない、ヴァンの回想と妄念が舞台化されていくように、ズタズタな切れ味をさらしてロンドンを狂奔し、エウリディーチェを失ったオルフェウスの心身をめったうちにされ、のた打ち回る。
アルルがきえた街をヴァンのナレーションがうつろにひびく。「マッチはいりませんかッ」死滅した、娼婦アルルの香水が波打つように幻想都市ロンドンの住人がマッチの火を手にズラリとならぶ。

”アルル”(大島朋恵)がジャック・ファントムの残り香がただようマイク・スタンドに立ち、歌う「次に会う時は別人の顔で」は痛烈にひびいた。「消えてしまえばいい、と」を歌い上げた瞬間に空気が変わる。アルルが死滅すると同時にあらわれる悪寒が、背筋に冷水をはしらせた。
涙目になって、ピストルをかまえるヴァン。もう目を反らせない。いやだ。あなたを死なせたくはない。「なあ、この絵美しいだろ?彼女の笑顔が、ここにはあるんだ!」
毎回のようにこの場面で泣いてしまうのだが・・・・今回も。



舞台のラストで、アルルが「私ほんとうは娼婦じゃないの」とつぶやく時、
ヴァンのアルルへの愛が、アルルの笑顔のうつくしさが、ステージいっぱいにひろがるを見ずにいられなかった。

黒い、死の国から迎えにきたアルルは、
初めて会った時のように沈鬱な風情で、
薔薇の園丁が挟を入れるように静かに、ヴァンの喉元に噛みつく。


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  終幕  .☸☸ڿڰۣ—☸ڿڰۣ—*.☸ڿڰۣ.☸ڿڰۣ—☸




2公演とも最前列で観て、マチネでは、何も知らずに座った左から2席目の、右から俳優たちが駆け抜ける。ゴシック劇も惨酷劇もそのやいばを光らせたまま、うずくまり、絶叫する。あんなにもハイテンションなステージを演出し、俳優たちをひっぱって心服させている演出力に脱帽した。
俳優たちの大合唱では、栃木公演と同等か、あるいはそれをしのぐ総力を見せた!最前列だから、声あげて泣きそうになりながら見ていた。
人生観をおおいにゆさぶられるステージに出会った。「石は砕け散るが、言葉は永遠に残る」というセリフは、時折ふところから取り出して握りしめたくなる。
『贋作マッチ』の俳優さんたちが今後、どのようなステージを見せてくれるのか非常に楽しみにしている。





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写真は栃木公演にて。舞台が終わって、歌姫の大島朋恵さんと、”死のゆび隊”。 
※写真は掲載許可をいただいております。


死のゆび隊:ヴァンとポールの絵でいっぱいのアトリエで、絵のイーゼルから変容し、額縁に彫りだされたレリーフの蛇体をくねらせて、床にひろがった落日の甘い蜜の池にもぐりこみ、くるおしくしゃぶりつく、しろへび達。

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私が作詞し、永井幽蘭さんが、これ以上ないほどピッタリな作曲で応えてくれた「死のゆび」が、大島朋恵さんの歌と、舞台芸術創造機関SAIの手に届き、『贋作マッチ』の壮麗なワンシーンを誕生させてくれた。
シーンのおわりでヴァンがつぶやく「おやすみ、ポール」が、ダンスと歌のくるおしい滑空の、優雅な着地をえがく。



栃木公演のあと、私は朗読劇の出演をひかえていて、「がんばってくださいよ!」と幽蘭さんと大島さんから励ましを賜り、本当は栃木公演のまえにやるはずだったのに、風邪をひいて中止においこんだ『天鵞絨の夢』の朗読を、(谷崎潤一郎の長篇小説。光栄なことに私は『天鵞絨の夢』の朗読披露第一号)みごと成功させることが叶った。



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by lecorsaire | 2018-02-16 18:28

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


by lecorsaire
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