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我れ若し女帝の密使なりせば

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「贋作マッチ売りの少女」神奈川公演(2月4日マチネ・ソワレ) 1


「贋作マッチ売りの少女」ファイナルの神奈川公演が、正に此処しかありえない場所で--------青線地帯とヒロポンのエルドラドだった黄金町(黒澤明の『天国と地獄』にも登場)、しかも黄金町が誇る名画座「ジャック&ベティ」からほんのすぐそばで開幕してくれた。ダナエ―の黄金の雨を吸いとった土壌が芳烈に香る煙から<幻想都市ロンドン>の地獄門が、黒い火柱のように噴きあがった。劇中歌「死のゆび」の作詞を<錬金術のかまど>めがけて、苦い媚薬のしびれるほど甘い、甘い、甘い水銀の蜜のしずくを垂らしつづけてきた我が悪徳が、セリフと、演出と、そして音楽とをいかなる綺華楽反応にそめあげることか。





何ということだ。
「贋作マッチ」は、どこまでも変容を止めない。
台本も、かなり書き変わっていて驚いた。ヴァンとジオとの兄弟軋轢が、栃木版と東京版で観た後半(老獪で鉄面皮な弟ジオが兄へのやるせない情けを口にするあのシーン)を、バッサリ切っている。「テセウスの船」もカットされていた。
しかしやはり今回もまた、両手いっぱいにかかえるほどの悲劇のどこにも、嫌味は混じってなかった。
まだ飲んだ事が無い酒だが、アブサンはきっと、こんな舞台みたいな味がするのかもしれない。



白塗りデスメイクの俳優たちによる開幕直前の「ヘルハウンド発声」は栃木、東京につづいて今回も登場。大島さんはtwitterで歌への意気込みを書いていたから、栃木公演の破天荒な巨大さが再降臨するのかと思ったら・・・・おやまあ。ステージには終始、やや小柄なダイヤモンドがそのカッティングされた表面を緻密なライティングに染めあげるのを観てとった。そうか!膨張をきわめ、縮小しつくした「贋作マッチ」はついに、うつくしい解体ナイフの先端の光のような炎の大きさを手に入れたのだ。
高純度の鉱石のなかでうごめく幻想都市ロンドンのオークションゲスト、彼等は得体のしれない金持ちで、辻斬りの銃豪で、闇の結社を組む超秩序の番人であり、あらゆる場所へ身体を溶かし、あらゆる物象のなかへ潜み、音のように響き、水のように流れ、光のように夜を照らす。
ヴァン・ゴッホが贋作師ヴァン・メ―ヘレンの仮面の絵筆のいきおいを炸裂させる絵画オークションで、ヴァン・ゴッホの伝記の筆が乾ききらない伝奇的悩乱を炸裂させるアントナン・アルトーが、ひたいの角をたたき折られたユニコーンの毛並を漆黒に変色させる。劇の後半で、ヴァン・ゴッホに帝王のかんむりをかぶせる狂気がアルトーの頭天に旗めくを見て取ったヴァンの弟ジオの口車による車裂き刑が待ち受け、自身がヴァンの帝冠でできた首枷の囚われ人になる未来図が黒い波うちを、岸壁にうちつける。



そんなヴァン・ゴッホ(贋作師ヴァン・メ―ヘレン)がピーターパンみたいな身軽さで、ステージのふちを跳ねるような走りを披露し、自分が絵のモデルになってもおかしくない位の澄み渡った身のこなしで、黒い炎から復活したような黒衣の娼婦アルル、幻想都市ロンドンの生態系ピラミッドで頂点を滑空する夜鷹にむかって、無謀にも絵のモデルになってくれとせまり、鼻であしらわれる。
この場面が、ロンドンの幻想住人たちのリボンの帯につつまれた花束になって、しかしそのリボンは締上げられ、だんだんと、花束の花びらが、むしりとられていくのだ。



アルルが歌う、ヴェクサシオンの「箱庭の薔薇」が聴こえてくると、栃木公演で聴いた歌唱の記憶が、猛烈に動揺する。
落ち着くのだ、俺の記憶。
アルルが歌い、歌と呼び合う詩をヴァンが朗読する。ふたりとも、ステージでは大きくみえる。
「箱庭の薔薇」のシアトリカルなエレメントが客席まで拡散し、白皙の風合いのまま、ローズガーデンの園丁の腰にさげた解体ナイフが、その切れ味の膨張を、いまだ輪郭だけ、フッと照明に照らしてみせる。


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「贋作マッチ売りの少女」神奈川公演(2月4日マチネ・ソワレ) 1_d0242071_19421620.jpg

黄金町での公演なら、一番リアルな空気がただよっているに違いない(・・・と当日フランシス館長たちに言い忘れた)娼館の場面は、ヴェクサシオンのシアトリカルなムードと真っ先に同じ地面でつながりたがる欲望が、はしりまわる(笑いをあげて)。
五人の娼婦が、装飾音だらけの裳裾をひきずったヴァイオリン、チェロの甘くるしい弦楽器を初めて聴くショックにクラクラする童貞客のように、ヴァンを(娼館の贋作師兼掃除夫)弦楽器のネジのように、しめあげるううぅぅぅっ。
どんな舞台でも映画でも、娼婦のセリフに聴き入らない人はたぶん、いない。セリフを聞いているだけで満足なり、言い返したくなる闘争心がわいてくる。
月日が飛ぶように流れた或る日、五人の口からヴァンが突如、自作のほうの絵をつぎつぎと描きあげる様子が、それぞれの腕前を披露する弦楽五重奏の絶妙にみちた絡み合いで展開される。栃木、東京公演でも出てきた、とても好きな場面だ。
五人の盛り上がりとともに登場するのが、東京公演では出てこなかったので腹の中で「お帰りーーーっ」と叫んだ、フランシス館長!
白と黒のコスチュームは白鍵と黒鍵のピアノだ。ならばピアノ六重奏といこう。グランドピアノに例えるなら、ブニュエルの映画『アンダルシアの犬』に登場した、ロバの死体をはこぶ棺ピアノのように調律が狂っている!!!!





クラシック系楽器でたとえばなしを語ったのは観念をひけらかしたいからではない。『贋作マッチ』ファイナルにして、初めての楽器奏者がヴァイオリンをあやつりながら現れる。「エミール・ベルナールだ」ベルナールはヴァンの絵から天才を見抜いたことを、ヴァンと同じように、ピーターパンさながらの姿で、伝える。「僕たち友達だね」「ライヴァルと言ってほしいね」ベルナールには、ヴァイオリンという、一人の小さな友達がいるのだから。
ヴァイオリン・・・・・ヴィオロンでもいいが、クラシック系楽器のなかでも狂気と紙一重の音色をふるう魔女(ヴァイオリンは女性名詞)とともに現れるベルナールには<幻想都市ロンドンの怪人>ジャック・ファントムの反像がチラチラ見えた。「ヴェクサシオンのテーマ」の合唱シーン、盛り上がりの天辺でヴァイオリンの大渦巻をマチネで聴いたその次のソワレでは、ベルナールがヴァンに紹介したポール・ゴーギャンが言う「お前の自画像、耳の形がおかしいんだよ!」がフッと霞んできこえてきた。
ベルナールは幻想都市ロンドンの、告死天使だったのかもしれない。







「贋作マッチ売りの少女」神奈川公演(2月4日マチネ・ソワレ) 2につづく
http://lecorsaire.exblog.jp/26453004/


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by lecorsaire | 2018-02-08 19:42 | 公演

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


by lecorsaire
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