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我れ若し女帝の密使なりせば

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「贋作マッチ売りの少女」 東京公演<漆黒>(17日)、あるいは<白夜>(14日)との交差点



「贋作マッチ売りの少女」 東京公演<白夜>(14日)に続き、
http://lecorsaire.exblog.jp/26236229/


17日は東京公演<漆黒>を観た。配役を<白夜>から完全に入れ替えた<漆黒>は栃木公演で観た演者ばかりで構成され、東京公演ではあっても、栃木公演の続きが夢の尾っぽを引いて、冷たく、そして熱っぽく、のた打ち回っている。





”情熱の画家” 贋作家ヴァン・ゴッホ: 
町田彩香(栃木公演では”人食い”ソニー・ビーン)

”切り裂き”ポール・ゴーギャン またの名をポール・ザ・リッパー: 
恩田純也(栃木公演では霊薬の精製法を知る男 修道士デストレ)

”劇作家演出家俳優でもあり絵描きと肩書きだらけ” 狂人アントナン・アルトー: 
野坂亜沙美(栃木公演では”錬金術師”エリファス)

”サナトリウム医院長”医師レイ: 
小堀佳恵(栃木公演では”世話焼き娼婦”アニー)

”ヴァン・ゴッホの義弟”画商ジオ: 
Cacao(栃木公演では”サナトリウムの長”医師レイ)

”霧の都の怪人??? 看護師??? ジャック・ファントム: 
菊池晴美(栃木公演では”じゃじゃ馬娼婦”キャサリン)

”看護師”シャーロック: 
丸井裕也(栃木公演では”麻薬中毒”シャーロック)




<漆黒>と、そして<白夜>をみてわかった、栃木公演と東京公演の決定的な違いは・・・・・
まず第一に、<白夜>と<漆黒>それぞれで ”ジオ様” が降臨した事。
兄ゴッホに、愛憎をむきだしでぎらつかせ、幻想都市ロンドンの欲望を贋作でみたす<白夜>コイズミショウタ”ジオ様”と、<漆黒>Cacao”ジオ様”が、黒衣で闊歩する。
twitterでは狂喜乱舞が毎回TLに押し寄せた。



全篇の舞台が精神病院の隔離病棟なのは<白夜>と同じで、舞台のながれも<白夜>と同じ。
しかしながら・・・・・
<白夜>14日公演が、精神医院の最上階20階から最下層B10くらいを部屋ごとエレベーターにして上がったり下がったりを繰り返してたとするなら(そうなんです、<白夜>の常盤ジャック・ファントムが声色をくるくる変化させるのを見ているうちにエレベーターガールを想像せずにいられなかったOMG)、
<漆黒>は、ロンドン塔が現役の監獄要塞だったころの地下牢が地下にいすわったまま動こうとせず、栓をぬかずに300年くらいたまったままの黒い空気を、マッチの炎のまわりに巻き付けていた。



<漆黒>のファーストシーン、本当に怖かった。地下特有のテンションの昂ぶりがダイレクトにせまってきたのか、心拍数が上ったというか、動悸が高まってきて、ええっ、もしかして観ている最中にオレひっくりかえったらどうしよう??? と冗談ではなく本気で心配になった。
切り裂きジャック以上にぶっそうなシャーロック、医院長レイ(サナトリウムに患者として入ったらある日叛乱をおこして病院を乗っ取り、頭のキレ味自慢をギロチン博士と張り合いたがっている)、そして医院の看護師でロンドンの悪霊ジャック・ファントムがブラックジャック(黒革の棍棒)をふりまわして、黒いボールギャグ(口枷)を嵌められたポール・ゴーギャンを威嚇する。栃木公演を噛みしめた歯並びが、<漆黒>の、<白夜>の時に匹敵する熱気もろともブラックジャックの殴打をくらい、歯並びがぶち折られて、あらわになった神経に金属のメスをさしこむとグリグリっとひっかきまわす。
メスの柄には、源氏名をかかげて娼館で客をとるローマ皇帝の妃アグリッピナ、メッサリーナ、ポッペアの横顔が刻まれている。



精神医院を劇場にかえる小堀レイ、菊池ジャック、そして丸井シャーロックのオネエ声が、東京公演に”幻想音楽劇の幻想”を出現させる。
東京公演と栃木公演との決定的違いは第二に、
栃木公演が、中心がどこにも無い、或は中心が至る所にある幻想絵画なら、
東京公演は、ロンドンの中心がたったひとつに固定され、まん真ん中から芝居と、歌のまぼろしがとめどなくあふれかえる幻想オペラだ。
栃木公演で観た娼館の娼婦3人がふたたび現れ、さらにジャックの幻術に呼ばれて・・・・・栃木で観た、娼館長フランシスが!





「マッチはいりませんかぁ」
マッチ売りの少女アルルを栃木と東京(白夜)で、
大島朋恵{マッチ売りの少女/アルトー}から 
野坂亜沙美{アルトー/マッチ売りの少女}へ受け渡されるのを目撃した瞬間、『贋作マッチ売りの少女」の錯綜する進行が歯ぐるま仕掛けを回転させる。
錬金術師(演出家)で絶対的中心:第五元素の探求者(劇作家)が、
町田ヴァン・ゴッホと、恩田ポール・ゴーギャンとともに「死のゆび」のダンスを踊る場面が、<白夜>14日のそれと肉迫する。
クライマックスで、アルトーがセリフを早口で次々に唱えると、
『贋作マッチ売りの少女』のポスターを描きあげる(画家)幻像をむすび、マッチをつまんだ手が、「Hand of Glory 栄光の手」だということを確信できた。 




「贋作マッチ売りの少女」 東京公演<漆黒>(17日)、あるいは<白夜>(14日)との交差点_d0242071_17282190.jpg






「?」

 ??????・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちょっと待て。

このブログ、書き始めからずっーーと、舞台を観た感想じゃなくて、
言語化された「印象」しか伝えていないぞ。

まあいいか。
感想は、もう大勢の方々が、いい文を書いてくださってるわけだし、これからも書いたり伝わったりするだろうから。



麻薬中毒探偵シャーロックが、アルトーから黒光りする麻薬を地下経由で入手する(だんだんと居直って来たぞ)。
目的のためなら手段をえらばない狂った探偵シャーロックのオネエ声は、アルトーの著作に登場する女娼帝、
アナーキストの戴冠姿、ヘリオガバルスの姿をとったホムンクルスだ(たぶん)。




うーーーん、
やっぱり、ブログがこうも書けないのって、
twitterで「贋作マッチロス」だと書いていた方がいたけど、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・

オレもそうだ。













<漆黒>を観てて、涙がこみあげてきて仕方が無かった。


「死のゆび」のダンスで、自身をモノクロームの限界点にまで削ぎ落とした町田ヴァンと恩田ゴーギャンが、表面を火であぶった匕首でからみあう様に息が続かなかった。ゴーギャンが、マッチ売りの少女をえがいたゴッホの絵を切り裂くと、愛の結晶を脳天までえぐられたゴッホが、天井が落ちてきそうな絶叫をふりしぼる。この場面は東京公演<漆黒>で一番強烈なシーンだった。

マッチ売りの少女が消えたロンドンを、ゴッホが半狂乱で走りまわる。涙がこみあげてきてやりきれなかった。



私の席からは数歩しかないところで、ヴァンの死人すがた(震えるほど美しかった)、クソ兄貴にすがりつくジオの背中が目にやきついて離れない。




東京公演の、客席の床と舞台とが同じ床の高さでつながった会場は栃木公演との決定的違い其の三で、
スタイル(仕様)なのではない。演者と客とが必死にたぐりよせる奇跡なのだ。



正直言わせてもらうと、東京の2公演どちらかあるいは2公演とも、栃木公演と比べたら出来はどうなのかなあ、「死のゆび」も歌わないみたいだし・・・などと意地の悪いことを、考えたりもした(大変失敬)。ところが2公演とも、何度となく客席から煽るのを忘れきって、ステージに呑み込まれてしまった。
東京公演ではヴァン=ゴーギャンの同志愛よりもヴァン=ジオの兄弟愛に中心が置かれているのかと、<白夜>と、<漆黒>を観終わった直後におもったのだが、
この舞台では、同志愛と、兄弟愛がうむ悲劇のどちらも、悲劇の地平線を超えて、何物にも穢し難い奇跡までたどりついてしまう。
演者たちが、力量以上の演技をみせたのを、舞台と同じ床の高さでつながった客席の床で、私もまた、力量以上の観客になることができた。
<白夜>14日を観た直後、麻宮ヴァンとコイズミ・ジオ様が燃焼しきっていて声もかけられず、「感動した」しか言えなかったのを思いだす。



栃木公演と、東京公演の<白夜>と<漆黒>全部に登場し、いちばんゆさぶられたセリフがある。
「なあ、この絵美しいだろ?彼女の笑顔が、ここにはあるんだ!」
来年の神奈川公演で、このセリフに出遭うことを楽しみにしている。




ああ・・・・・
こうして書いてると、常盤ヴァンとコイズミ・ジオ様も観たかったし、小林機械さんのアルトーも観たかった。











※使用画像は、【贋作マッチ売りの少女】東京公演のサイトから
http://stageguide.kuragaki-sai.com/guide/stage/fakematchgirl/tokyo/


by lecorsaire | 2017-12-20 19:33 | 公演

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


by lecorsaire
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