我れ若し女帝の密使なりせば

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「贋作マッチ売りの少女」 東京公演<白夜>(14日)


栃木での公演からほぼ一か月を経て、舞台「贋作マッチ売りの少女」は東京へやってきた。
栃木公演では巨大なステージが幻想都市ロンドンの箱庭をひろげていたのが一変、東京では階段を降りた地下室で・・・・・ヴァン・ゴッホの贋作が生んだ札束のブロックを小さなカバンのなかに無理やり押し込んで、向きを横にしても縦にしても入りきらない札束を冷や汗かいて詰め込むような、テンションの真空パック公演がおこなわれた。栃木公演と鍔ぜりあう、圧倒的な演出力。今回も、哀しみのどん底を描いてるのにまったく嫌味がない。


此処ではない何処か・・・
人類史の歪曲・・・
とある可能性のみが収束した世界
其処は幻想都市ロンドン。
史実上の偉人たちが時と場を超えて集った並行世界
画家ヴァン・ゴッホは贋作稼業を生業としていた。
ある日、オークション会場で美しい少女、アルルと出会う。
彼女は“マッチ売りの少女”と呼ばれる娼婦であり、歌姫。
ヴァンは、少女に絵のモデルを依頼するが金が無いことから断られてしまう。
丁度その頃、腹違いの弟であるジオからルームシェアの提案を受ける。
相手は画商であり画家であるポール・ゴーギャン。
強烈な個性を持つ2人は、互いに惹かれあっていくが・・・ だが。
物語はルームシェアの破綻、耳切り事件後の、精神病院サナトリウムからはじまる。
ゴッホの義弟ジオは、レイ医師と共に何事かを企て、義兄との面会に挑むが・・・
この作品は、情熱の画家“ヴァン・ゴッホ”の短い生涯を描いた密空間演劇である。


※舞台芸術創造機関SAI 【贋作マッチ売りの少女】東京公演サイトより
http://stageguide.kuragaki-sai.com/guide/stage/fakematchgirl/tokyo/




栃木では大合唱を披露するほど何十人?もいた登場人物を東京では七人にまで刈り込み、
栃木公演の錯綜をきわめる展開を派手な裏地にし、表地を無辺大な白衣で統一した、精神病院の患者と看護師たちが、おそらくは内部が迷宮構造、外観がゴシック装飾でできた病院建築を背後に背負った、病室劇を展開する。精神病院の隔離病棟での絶叫シーンから始まった時、内心(ええっ、ちょっとこの公演これで大丈夫なの?)と一抹の不安を抱いたが、そんな心配はまったく必要なかった。
栃木では華麗な横顔をみせていた歌唱も東京では鳴りを潜め、私が作詞した「死のゆび」も、そのピアノ音楽だけが幽冥うるわしくながれて、ピアノにあわせゴッホとゴーギャンと、アントナン・アルトーが、病室を、狂乱の荒地にそこだけ白夜が咲き誇るちいさな庭に変えて、三人でダンスをおどる場面をみることができた。一番好きなシーン。

開演30分前ぐらいから小屋のまえで立っていて、ややこたえる寒さを我慢していたのが一転、舞台がはじまるとたちまち物凄い熱気が密室に充満する。
おお?、演者たちが、白衣すがたで栃木公演の台本??を手にしている。
ギャラリー悠日(←栃木公演での会場)で見た場面をセリフから思いおこして、密室のテンションでやられた頭で昂揚していると、栃木で聞かなかったセリフが、手術刀の先端のように頬や喉をつっつく。
みているこっちも、一緒にさけびたくなるのをギラギラしながら堪えていたけど、いまでは叫んでしまわなかったのを、ちょっと後悔している(←オイッ!w)
病室に持ち込んだトートバックに、何故か入ってた扇子をコートとマフラーのまま、パタパタあおいでいた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
東京公演「白夜」だけの印象で『贋作マッチ売りの少女』を書き切るのは心もとない。
16日にみる東京公演「漆黒」での印象を合わせて、より完全な公演記を書き上げたいので、以下は何か所か、あえて宙づりにしてある。



阿鼻叫喚の奥底から迫ってくるのは、歴史上のロンドンで天下とスキャンダルを鷲掴みにした耽美派の文豪オスカー・ワイルドの舞台『サロメ』、そしてワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』。
ケン・ラッセルの映画、オスカー・ワイルドが登場し文豪の貸切で『サロメ』を娼館で演じる劇中劇を思い出すと、白衣の群れにただひとり、サングラスをかけて現れるゴッホの弟ジオにピンときた。
ジオ役のコイズミショウタさんは東京公演で参加してきた演者だ。
「ひとは素顔で語る時、本音からいちばん遠ざかる。彼に仮面をあたえよ。そうすれば彼は本音を語るだろう。」オスカー・ワイルドの名言がジオに授けた黒メガネは仮面だ。
(このつづき、ゴッホの弟ジオについては<漆黒>とあわせて読み解きたい)

ベッドにしばりつけられたポール・ゴーギャンは『サロメ』で井戸の地下牢に閉じこめられたヨハネの絶叫をあげ、さけびは救世主をとびこえゴッホを片耳もろとも揺さぶる。
アルトーは文筆と絵筆でゴッホの色彩をひきづりだす横顔を、片顔では、栃木公演で見た”マッチ売りの少女アルル”をえがき、もう片方の横顔からは悪鬼にゆがんだドリアン・グレイの肖像がみえる。病院扉のむこうに閉じこめられると、泣き叫ぶ声で扉がぐにゃーーっと歪む。

東京公演での新顔、小林夢二さん。精神病院の院長レイは栃木公演でのレイ院長が相当の不敵さであらわにした輪郭と骨格と神経に、筋肉と重量を与えた。東京公演の贋作マッチが音楽劇にならなかったのは精神病院の狂乱の声が始終とどろき、音楽の印象が薄まってしまうからだろう。ならば新しい空気をふきこむ役者は絶対、栃木公演の外部からつれてこなければいけなかった。

霧のロンドンの怪人ジャック・ファントム(演じるのは栃木でヴァン・ゴッホを演じた常盤美妃さん)は精神病院の看護師、あるいは大英帝国女王の顔をかたどって病院の屋根にかざった女神像が、辻斬り中毒症を呈した徘徊すがたか。ヴァン・ゴッホから大きく変貌した声を特に楽しくきかせてもらった。

ジャック・ファントムを栃木で演じた麻宮チヒロさんが東京ではヴァン・ゴッホを演じ、栃木でのクールな印象をさかさまに墜落させてボロボロにのたうち回る。(このつづき、ジオの兄ヴァン・ゴッホについてはこちらも<漆黒>とあわせて読み解きたい)
(栃木公演ではゴッホとゴーギャンとの友情が愛と祈りにまで高まった姿を見とどけたが、東京公演<白夜>ではゴッホとジオとの兄弟が、火と空気になって、たがいに焼きつくしあいながら互いを求め合う姿を見た。<漆黒>では、どうなるのだ?)


サロメの斬首刀が、ヨハネの首をとりあうように、白衣たちの手から手へとわたり、
舞台はヘロデ王の宮殿のように血まみれになる。




「贋作マッチ売りの少女」 東京公演<漆黒>に
つづく







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by lecorsaire | 2017-12-15 18:41

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


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