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我れ若し女帝の密使なりせば

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『タリウム少女の毒殺日記』

この映画を観るまではいかなる理由でも死にたくなかったので『タリウム少女の毒殺日記』を傑作として観ることができた歓びは何にもまして、嬉しい。
試写での感想というやつが、・・・・猛烈に不快なヘイトムービーだとか今年最大の国辱映画だとか、前評判がやたらに挑発的で、・・・・youtubeでも観る事ができるアカラサマな挑発に満ちた予告篇と、予告篇とは本来べつものとして観なければいけない本篇の、・・・・倫理感への真っ向からの冒瀆にもかかわらず、小理屈を捏ね回してまで不愉快感を力説したくはならなかった。
蛙を、ばらばらに解剖するオープニングから、分厚い画面で、勁さのあふれる映画を撮ろうというスタッフと役者達の意思の頼もしさを嗅ぎ取った。
むっちりとした、画面映えする体格で女子高生を演じる倉持由香には、この子が出ている画面を、映画を、このままずっとずっと見続けていたいと思わせるような、目のちからのつよさと、きっぱりした笑顔のかがやきと、それでいて全篇を覆う不安の風穴そのもの、あるいは風洞の轟きの中心に屹立する、司祭の貫録が漲る。
この風穴のむこうに、今から数百年か早くて数十年後の、劇的に進化した肉体と精神が闊歩する世界がひろがっているのだ。劇中のだれもが新たなる世界に躊躇し、嘔吐寸前の不快感で行くのをためらうが、・・・・・・覗きたい衝動にかられる。少女に性的関心をおさえきれない中年教師も、「高校生少女のおねえさん」に馬乗りにされた電車通学の男子小学生も。
全身に、タトゥーとニードルピアスを鏤め性別を拒否するような剃髪剃毛の、透き通るような美声の妖婦が、「こちらの世界」に来ている。正体は美声だけの超物質体がヒトそっくりに変貌したのか。ふしぎなほどカメラの正面撮影に毫も臆せぬ。
インターネットに、あらゆる種類の観察動画、観察日記を投稿しつづける女子高生が、同級生から集団で性的にいじめられる姿(性と直結する儀式的な死と再生)まで観察動画にしてしまううちに、行きつくところまでいってしまって、母親に、猛毒(タリウム)を少量ずつ投与していきその変調の具合をネット(日記)に曝していく。観ていくうちに自然と、ピーター・グリーナウェイの映画『ZOO』(シャム双生児として生まれたあと分離した双子の生物学者が果物、魚類、動物の腐敗映像を撮りつくした最後に毒を嚥んで死んだ自分たちの腐敗する姿をカメラにさらけだし・・・・・・・1985年の映画)の凝りに凝った映像の奇怪動物園を連想した。『ZOO』のナレーションに確かこういうのがあった、「生命の誕生から終焉までを一年365日に例えるならば、人類の発生は12月31日の夕暮れの時刻である」
しかし『タリウム少女』は、もっと熱っぽく張り詰めている。監督の土屋豊が大好きなデレク・ジャーマンの『ラスト・オブ・イングランド』と同時上映してもらいたくなるほど、制服のまま光輝いて、海の上を歩む。
「物語なんて無いよ、プログラムしかないんだよ」しかし少女はやがて気づくのだ、進化した世界に行けば、われわれにはプログラムでしかない記号配列が、より高濃度な物語として、肉体と精神の喜怒哀楽をゆさぶってくるのだと。
少女が制服のまま、タトゥー美女が運転する蛍光ランプだらけの自転車の爆走につきあって二人乗りし高速道路を突っ走る。BGMのロックが奏でる八方破れの、・・・・・・・・・・何ちゅう爽快感!

この感想は未完だ。まだ一度しか観ていないこの映画に、まだまだ決着をつけたくは無い。船出したばかりの、未次元航行船の、処女航海に立ち会うことができて、今はただ感謝の気持ちしかない。
by lecorsaire | 2013-07-25 20:28 | 映画

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


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