我れ若し女帝の密使なりせば

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『疑似即興舞踏 彼方へ』

2011年の暮れ、
神奈川の東生田の公民館でおこなわれた、
当時70歳の舞踏家、吉本大輔の 一週間連続公演


あの日々から、いまや5年が経った。




2016年7月8日の夕方、明大前の、キッド・アイラック・アートホールに居た。椅子というか(木製ではない)、シートに座って、5年前の目盛りを、手探りでさがしてダイヤルをまわすが、うまくいかない。
5年前よりも、目盛もダイヤルも、数字の量と組み合わせが、複雑に絡み合っているし、決定的に、イマジネーションの造形術が、5年前の過去の一部を、清算しているのだ。
公演を始める前から、既にステージをうろうろ(いやもう始まってるのと同じだ)歩きまわっている。大輔さん「すみません、予約したお客さんで、まだ着いていない人が何人かいるので・・・」
客席をみまわすと、知った顔がほとんどいない気がする。大輔さんの舞踏を、はじめて観る人がけっこう居るようだ。
「そろそろ始めようか」全身をおしろいでぬりたくり、光彩つややかな薄物をまとった、5年前の姿に、これまた5年前の、連続公演をはじめ野外公演、ゲリラ公演で、浴びるほど聴いた・・・・・ ショスタコーヴィチのワルツがホールに鳴り響き、公演は始まった。
大輔さんが、ステージの木の椅子に腰かけた、その円周を、ワルツが大きく、(ホールの天窓にうつった)土星をとりまく虹色の残骸のように、輪をかぶせていく。
生前にその騎行で世界最強を謳われると同時に数々の奇行でも伝説になったロシアの<怒れるジジイ> アレクサンドル・スヴォーロフ大元帥(やっと俺の目盛りが合った!)が木の椅子から、とびあがり、怒濤の速足で、階段状になった客席まで、昇ってくるのか・・・・・と思ったら、会場から、とびだしてしまう。ステージは、ワルツだけがうつろに流れて、もぬけのカラに。ほほう、これはPAか天井通路にでも現れるのかなあと、高い天井を眺めていた。その途端だった。

突然、予想を絶する光景が眼前にひろがったのだ。ステージの奥の壁が、通行人や車がゆきかう外路と壁一枚で隔たってると誰もが信じていた壁が、シャッターのようにひらかれると(ステージも、客席も、外から丸見えにして)、車道の真ん中で、白塗りの、大輔さんの長身がそびえて見えるではないか。車道を走る特権をバイクとともに貪る、ありとあらゆる車の流線型のどれよりも美しく、舞踏に淫していた。
ステージ奥の壁をキャンバスにみたてて、横広がりのパノラマ画面を、アレクサンドル・スヴォーロフ大元帥の奇襲身体と、その軌跡とでみたしてゆく。運送業のトラックがキモを潰してよける車道が、フランス革命との戦闘をくりひろげる18世紀のカオスに変貌する。トラッカーの目には舞踏が、飛来してきた大砲の敵弾が、落ちて爆発せず、地面にはじけて、回転するさまに見えたのだろうか。客席もろとも、あたまが、爆発しそうになる。


壁(キャンバス、どんちょう)が閉じられる。ステージに戻った舞踏身体から、暗闘の中で、汗と綯い交ぜになったおしろいが、ニッキの香りを——————-客席の最後列の一番端に座った鼻にまで、届けてくる。この日の至福の瞬間である。
やがて舞踏は、ロシアの大元帥から、閉館時間のエルミタージュ美術館に忍び込んだ、盗賊へとなりかわる。
カラヴァッジョの絵の明暗コントラストを強奪し、ダンスが、タナトス(死)の、スペクタクルをくりひろげる。絵の中の、少年のリュートにみちびかれて。



みぶるいするほどの明暗のひだをうかべて、ゆっくりと歩いて



流刑地以上の絶界をめざして







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by lecorsaire | 2016-08-08 20:48

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


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