我れ若し女帝の密使なりせば

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肉体の廃墟Ⅱ バッハを踊る

 床をあるきまわる、子供みたいな足音は、公演中ずっときこえたのは幻覚か。


 真っ暗な室内に、頭上の現実を忘却してすわりこんでると奥でガラスのはじける音が響き肝をひやす。なにか獣が、暗黒にとびだした・・・・わたしの周囲観衆が、手元のガスライトを、ほぼ同時にかざした。

 吉本大輔のすがたが、青くひかるうすい火につつまれ、神経が一糸残らずみなぎって羽二重のように白いユニコーンの肌に、「貴婦人と一角獣(ユニコーン)」のタペストリーをまきつけ、こわいえすがたをさらす。
 ひたいから、おうごんの角がはえる瞬間を観衆に目撃させんと、とまった絵姿にうごけうごけを念じさせる。
 タペストリーは、ようやっと望む人に所有された悦びでユニコーンにからみつき、吉本大輔に、四足上半身のケンタウロスの絵巻絵すがたをさずけ、しろい手の中の、錬金術の試験管にともしびをかがやかせる。
 背後でかなでるバッハの円周は巨大化し、暗い湖面に浸ると身体の輪郭を消滅させ、雄大な半透明になる。


 あちこちでまわるキャメラの一機がわたしの隣で故障したらしく、技師が難儀した。



 試験管から、火がとびだし、吉本大輔の腹にはいりこむ。下半身を覆ったタペストリーを、くしゃくしゃにして、ひきちぎり、ひとがたのあしでふみちらす。
 客席から、時限爆弾のはいった花束が放られ、ステージに静かにおちる。みんなこの突発事件に気をとられてしまい(本当にこれはビックリした)、吉本大輔に視線をもどすと息が凍った。
百合の花園の匂いと幻覚から立ち上がり、聖セバスチャンの肉体を得たユニコーンが、まぶしい肌を二本足でささえ、ひたいからは瞳と同じ黄金いろにそびえたつ角を、天へとかざす。
蔓のようなユリを天に投げあげると、角を磁石にして、バベルやカンタダさながら、のぼっていく。するっ、蔓は手からちぎれた。
 ゆっくりと落下する。残像をえがいて、床にたたきつけられるまで、おちる、おちる、ゆっくりと。百合の花園におち、しろい百合の花怨のむれにからだじゅうをトゲ蔓巻きの串刺しにされる。
 ユニコーンの折れた角から、身体に錯乱がながれこむ。からだじゅうから、皮のかけらを剥ぐように、はなびらをひきちぎる。
 ステージいっぱいに強い薫りがみなぎる。いのちのにおいが、見つめる目のむれの毛穴からたちのぼり、素手で便器の孔からひきずりだされた貴婦人の香り玉と艶絶にからみあう。



 ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』のクライマックス、潜水艦ノーチラス号が、鋭利な船首ごと機体全身で、海面に醜怪をさらす戦艦の横はらを突き刺して沈めてしまう姿が、地の底にみちあふれる。

 ネモ船長のノーチラス海底城は、白百合の花骸をまきあげ、地と水との深いおくそこへとゆっくり、ゆっくりおりていった。









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by lecorsaire | 2009-12-04 19:17 | 公演

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


by lecorsaire
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