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我れ若し女帝の密使なりせば

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幻想音楽劇『贋作マッチ売りの少女』栃木公演(2017年11月5日マチネー)



私が作詞した『死のゆび』が劇中歌として舞台にあがったので、はるばる東京から観に行った。来月には東京でも上演されるのだが、栃木公演は東京以上に破天荒な内容らしいので、一体私の作詞と、どんな風に出会えるんだろうかと楽しみにしながら、会場の入口をくぐった。


『死のゆび』



人形時計の文字盤が
沈む夕陽(ゆうひ)の輪をなぞり
赤く 赤く ふるめかしい音色をならす

死のう 死のう

時こそ来たれ 寝台は妖面 満艦飾
水滴で重い蜘蛛の巣
天使の群が 蝶の翅(はね)で
したたるゆびをなぞってえがく

文字盤はさわぐ 夕陽(せきよう)の輪の滴りの
赤い 赤い
赤い 漢数字の指文字


死のう 死のう 

壊爛(かいらん)の バビロンめがけ 蜘蛛の巣めがけて ダイビング

夕空のカーテンに
くらくら 浮かぶシルエット
寝台から這出した
白蛇(はくじゃ) しろへび
粘りきった蜜を しゃぶって しゃぶって ゆらめく
まだらいろのよこがお

金色の目で ゆびさきを追いかける


媚薬は苦く
水銀のしずくを打ち鳴らす


死のう 死のう





娼婦で歌姫の、マッチ売りの少女アルルが指先に灯す火あかりをとりまくのは幻想都市ロンドン。天才画家ヴァン・ゴッホは生活のために贋作をくりかえしてオークション会場を札束地獄にし、彼とルームシェアする画家ポール・ゴーギャンは、どうやら秘密警察のスパイかと思われる。このふたりがアトリエで心血をそそぎ絵画製作にうちこむ場面でひびきわたる『死のゆび』の歌声!
私が作詞し、永井幽蘭さんの作曲と歌で東京に響いた音楽が、今回はマッチ売りの少女:大島朋恵さんの歌声によって栃木で披露された!音楽が聴こえている間じゅう、時間が止まる心地を貪った。そして更に、公演の特製サントラにまで「死のゆび」が!


今回は、音楽劇を期待して「聴きに」行ったら、狂った笑いがこみあげそうにある位盛り沢山で、街の中心にオペラハウスなど建っていなさそうな幻想都市ロンドンが、ヴェクサシオンのライブでおなじみの幽蘭さんワールドであふれかえってた。「電気のワルツ」はピッタリ、そしてまさか「ヴェクサシオンのテーマ」が大合唱で聴けるとは!


「マッチはいりませんかぁ 」 少女の声が、舞台を観終えた翌朝になっても腹の底に灯り続けている。
本当に破天荒な舞台だった。破天荒さが、ことさら全身に染みとおった。犯罪と自由の幻想都市ロンドンには刃物と大型拳銃が終始にわたってきらめき、火を噴く。マッチのほのおは蕾のようにふくらんでは霞んでゆらめく。アントナン・アルトーはゴッホに天才の王冠をさずけたくて絶叫しまくり、白塗りのロンドン市民は「メトロポリス」ばりのモブシーン。ビザール美術館の生き人形のような娼婦たちは館長のSMダンスにあらがうたびにレェスまみれの心臓を鼓動させ、精神病院の医院長はアルトーやゴッホよりも切り裂きジャックが墜ちて来るのが待ち遠しくてたまらない様子だし、ジャック・ファントム・・・霧のロンドンの怪人は街の犯罪と狂気を無辺の立ち位置から煽りまくっている。展開は錯綜を極めていた。ホームズやロートレック伯爵、詩人ヴィクトル・ユゴーさえ登場していた。ストーリーとひきかえに、中心がどこにも無い、或は中心が至る所にある幻想絵画の巨大キャンバスをじっとみつめているような危険さに迷いこんでしまった。ロンドンの背後にパリやバビロンが見える、メトロポリスが見える。照明や音響の緊迫感、舞台の求心力はなかなかの見ごたえだった。


ゴッホとゴーギャンの、目の粗いサンドペーパーでくまなく擦りあうような短く激しい営みが、よくよく核心を抉って舞台化されていた。
少女が離れていったゴッホが、エウリディーチェを失って悲嘆にくれるオルフェウスのように娼婦たちからなぶり殺されかけるシーンなどは特に印象深かったし、ラストあたりでゴッホの口から「人間の暖かい心は優れた芸術を嫌う」というようなセリフが発せられ、唇の左端に、塩辛いものを感じたと思ったら、涙がつたっていた。


涙がこみあげてきて仕方がない舞台だった。「我々はどこから来たのか/我々は何者か/ 我々はどこへ行くのか」ゴーギャンの天才が爆発したタイトルを歌にし、舞台クライマックスで炸裂した大合唱に涙腺が爆発。

全篇、悲哀一色だった。しかし何処にも嫌味はなかった。

ひさびさに味わう、本当にいい公演を観た時にだけ来る壮快さに満たされた。
自分が作詞した曲が舞台にあがった事をはるかに超える喜びに満たされて栃木をあとにした。次は来月の東京公演だ。

そして、その前に・・・・・・・・・・・








by lecorsaire | 2017-11-06 17:32 | 公演

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


by lecorsaire
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