我れ若し女帝の密使なりせば

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映画『瀕死の白鳥』

白鳥の羽毛の蒼白な衣擦れが、映画『瀕死の白鳥』の伴奏ピアノの音色に透けてざわめく。映画の舞台の露西亜帝都、聖ぺテルブルグのざわめきが、吐息が、ささやきがきこえてくる。
革命前夜の白夜にまどろむ深夜二時ごろのサロンや劇場につどう貴婦人たちの頸すじからこぼれて散る真珠だまのような音色が、ロシア指折りの舞姫で映画女優のヴェーラ・カラリの、カメラを前にバレエを踊ったあしもとに、或いは暗く、或いは熱っぽく、虹色の幻光を湛えて、しみわたる。



映画『瀕死の白鳥』は1917年に撮られた。監督は、小説家ドストエフスキーや詩人ベールイと並んで聖ぺテルブルグの比類ない美しさに魅せられて、ついにはこの白夜の帝都以外の場所で映画を撮らずに、1917年に天に召されたYevgeni Bauer エフゲーニー・バウエル。映画『瀕死の白鳥』が、彼のいわば、「白鳥の歌」になった。


柳下美恵さんのピアノ伴奏で、この映画を観ることが、今年一番の願いだった。
ひょっとしたら、この日12月14日に、会場の本郷中央教会に行けなかったらどうしよう?観られなかったらどうしよう? 聴けなかったら・・・・・そんな心配までしたほどなので、当日の午后一時頃に、少々つよい地震が起こったときには、電車の運休を妄想して「冗談ではない」と叫びたくなった-----------------------------


帝都ぺテルブルグのあちこちにあった、ロシア社交界の重要な場所である劇場の、豪華なムードが大好きだったエフゲーニー・バウエル。ゴシック建築のたたずまいが凛々しく幽玄な本郷中央教会の白い入り口に立ち、目線を空たかく羽搏かせると、冷たい、湖面のようなあおぞらに包まれてしまいたくなり、映画を観るまえの、現実からの飛翔感をたっぷりもらって、スクリーンが垂れた礼拝堂の、木の椅子に滑り込んだ。ここの木の椅子が大好きだ。まるで、時代を超える儀式のように、座ることができる。そしてこの日、教会は、豪華な劇場のまぼろしにつつまれる。

まるで精霊が語り、幽霊が歩む映画女優で、そしてなによりもロシア指折りの舞姫だったヴェーラ・カラリの祭壇とよぶのがふさわしいのが、映画『瀕死の白鳥』である。



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映画『瀕死の白鳥』にとってストーリーは、もはや重要では無いのだ。
バレエで白鳥の死をえがくイマジネーションが映画のカメラを詩の絵筆にする。
サン・サーンスのメロディーを、チェロとともに伴奏し、繙く詩の絵巻がバレエ『瀕死の白鳥』を、本郷中央教会のスクリーンを消滅させ、木の壇上に出現させる。
これは、触ったら感触を錯覚できる程のまぼろしなのだ。
トウシューズの音は、伴奏に、透かし彫りをえがいて聞えてくる。


ヴェーラ演じる啞の娘のバレリーナの前に、死に憑りつかれたひとりの画家が現れる。だれひとりも理解者も得られず、映画の客さえも、彼も笑い者としか見ようとしない。
画家のアトリエでポーズをとったまま、バレリーナが、画家に絞殺されると




画面いっぱいに、息をのむほどうつくしい、絵姿のような死顔が、まるで画布のようにひろがる。

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啞の娘が、恋人と筆談をすると、字幕が、手書き文字になって現れる。この恋人を演じたヴィトルト・ポロンスキーと、ヴェーラ・カラリは、1915年の映画After Death (これも監督がバウエル)でも共演をしていて、みたところ映画『瀕死の白鳥』と重複する面がいろいろあるので、この文を載せたらそう日が空かないうちに、なにか妄想めいた一文でも書いてみることにしたい。



本篇の上映前に、柳下さんと組んで伴奏をしたチェリストの新井さんが、バッハの無伴奏組曲の一部を弾き、サン・サーンスよりも感銘深く聴けた。
本篇の上映後に、柳下さんのピアノにあわせて、何か画面が映っていて面白かった(?)




去年にも増して、教会でのオープンカフェのコーヒーとタルトが美味しかった!!!
毎回、ちゃんとお礼も言わずにただ飲み食いしているだけの自分が恥ずかしい・・・・・・・・・・・・・・・・・








今年も、素晴らしい上映会をありがとうございました



✽✽映画『瀕死の白鳥』(←tumblrで紹介した公演宣伝)✽✽
2013年12月14日 ✽ 聖なる夜の上映会vol.7 本郷中央教会 ✽✽
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by lecorsaire | 2013-12-16 00:23 | 映画

「騎上の陛下におかせられては周知のごとく、人生はもっとも大胆で華麗な賭けをうたう剣とマントの物語でございます」


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